【衆院選2021 新潟6区候補者への公開質問】解説編

誰のための政治なのか

いよいよ明日10月31日に投開票が行われます衆院選。
10月23日に以下のページにて公開しました今回の衆院選に関する公開質問ですが、質問の設定は「いまぴーの革命レディオ」経済解説のひろぽんにお願いしました。

【衆院選2021 新潟6区候補者への公開質問】
公示され選挙戦が始まった衆院選。今回の選挙は「ばらまき合戦」(時事通信)と揶揄するメディアもありますがコロナ禍において給付金1回のみで自粛させられた一国民としては政府の財政出動は必須だと考えます。アメリカは3度給付金を出しています...

今回は設問についての解説をお届けします。
また、ひろぽんによる高鳥修一候補の回答へのコメントも併せて掲載いたします。
みなさんの中には、経済の話はちょっと難しいと感じる方もいると思います。しかし今回の質問と解説は、我々庶民が苦しまなくても済むために必要な知恵でもあります。

本来政治とは、全国民が幸せであるための手続きであるはずです。
そして国会議員とはそのために国民から付託されている「代表」であるはずです。
今回の衆院選の結果は明日にならないとわかりません。ただ、当選する議員が真に国民のことを考える人物であってほしいと私は願っています。では解説にまいりましょう。

なお、現時点(10月30日)の時点で回答をいただけたのは高鳥修一候補だけだったことを付記しておきます。選挙期間中にもかかわらず私の投げた問に真摯に回答いただきこの場を借りて感謝申し上げます。

公開質問 ひろぽんによる解説編

質問1

「政府の財政赤字は基本的に悪いものである。政府は財政黒字(財政均衡)を目指さなければならない」と考えますか?
そう考える場合、理由も教えてください。

理想の回答「財政赤字(黒字)に良いも悪いもない」

<解説>
日本の経済主体を政府部門と非政府部門(企業、家計、自治体、海外など)に分けたとき、全体の資金収支は、必ず下記の恒等式が成り立つ。

政府部門の収支+非政府部門の収支=0

この式は「論理」や「思想」ではなく、常に成り立つ会計等式である。「手から物を離せば下に落ちる」と同じ、単なる「事実」である。

また、この式は以下のように表現することもできる。

政府部門の赤字=非政府部門の黒字

政府部門の黒字=非政府部門の赤字

たとえば、ある年に政府が110兆円支出し、100兆円徴税したとする。

これは、政府部門から非政府部門に110兆円が流れ込み、非政府部門から100兆円が吸い出され、最終的に非政府部門の金融資産が10兆円増加し貯蓄されたことを意味する。

またある年に、政府は100兆円支出し、110兆円徴税したとする。

これは、政府部門から非政府部門へ100兆円が流れこみ、非政府部門から110兆円が吸い出され、最終的に非政府部門の金融資産が10兆円減少したことを意味する。

これらは単なる「事実」であり、これ自体に「良い悪い」はない。

しかしこの「事実」は、これまでの「経済学の常識」に反している。

これまでの経済学では「10兆円の政府部門の赤字は、民間の貯蓄10兆円を奪い、金利を上昇させる」と考えていた。経済学者やマスコミは、この「経済学の常識」をもとに、財政赤字を「悪いもの」だと騒ぎたて、我々もそう思い込まされてきた。

しかし「事実」は「財政赤字は非政府部門の貯蓄を増やし、金利を下げる」「非政府部門の貯蓄を食い潰すのは、財政赤字ではなく財政黒字」なのである。

そして「政府部門の赤字(黒字)=非政府部門の黒字(赤字)」それ自体に良い悪いはない。その時の経済状況により政府部門が赤字(=非政府部門の黒字)になることもあるし、その逆になることもあるというだけだ(ただし過去の歴史を振り返ると、政府部門が赤字のときの方が経済は安定している。大不況は政府部門が黒字もしくは赤字が縮小した直後に発生している)。

よって政府が目指すべきは「財政のバランス」ではなく、「経済のバランス」である。

たとえば新型コロナウイルス禍により失業や企業倒産が増えて「経済のバランスが崩れる」ことが想定されるとき、政府は適切に財政の支出や減税を行うことで、経済のバランスを保つ(失業や企業倒産を抑制する)ことができる。

このとき、政府財政は赤字になるだろうが、その赤字自体には良いも悪いもないのである。

質問2

政府の財政支出に「財源(税・国債)」は必要だと思いますか?

理想の回答「政府の財政支出に財源は存在しない

<解説>
政府の支払いのほとんどは「支払先の銀行預金口座の残高の数字を増やす」ことで行われている。
そのために政府は「必要な資金」を事前に調達する必要はないし、現にしていない。

政府の支払いに必要なのは「国会の議決」だけである。
国会が政府の支払いを議決すれば、後は単なる会計処理だ。

政府(財務省)と日本銀行と民間銀行が密接に連携し、政府の支払い先の企業や個人や自治体の銀行預金口座の残高の数字を増やす。こうして政府の支払いは完了する。

徴税はこの反対の会計処理が行われる。つまり納税者の銀行預金口座の残高の数字を減らすことで徴税が完了する。

これらのオペレーションは、オペレーションに関わる人たち(財務省職員、日銀職員、銀行員)が「コンピュータのキーボードを叩く」ことで実行される。

また「通貨の発行者」である政府は、「通貨の利用者」である非政府部門と異なり、支出能力に限界はない。政府のどこかに大きな金庫があり、そこからお金を出すことで金庫のお金が「減る」わけではないし、徴税しても金庫のお金が「増える」わけではない。単に非政府部門の銀行預金口座の残高の数字が増減するだけだ。

ただし、政府は支払いに先立って資金を集める必要がないと言っても、野放図にいくらでも支出できるわけではない。その国の実物資源や生産能力を超えて政府が支出した場合、たいていは「インフレ」という形で制約が出現する。

さて、政府は支出に先立ち資金を用意する必要が無いならば、税金の役割は何なのか。

税金の役割は、まず「通貨への需要を生み出すことで通貨を流通させる」ことである。

政府が国民に納税を強制することで、人々は納税に先立って通貨を稼得する必要が生まれる。つまり人々に「通貨への需要」が生まれる。この「人々の通貨への需要」により、通貨が流通するのである。

他にも税金には「人々の行動を変えて社会をより良い方向に導く」役割もある。たとえば酒税によりアルコール中毒を抑制し、タバコ税によりニコチン中毒を抑制し、エコカー減税により人々に環境にやさしい自動車の購入を促すことで、環境悪化が抑制されるだろう。

また、税金は所得の配分を修正する役割もある。資本主義は必然的に格差を拡大させるが、一部の富める者に所得が集中した場合、その所得の大部分は消費に回らず貯蓄される。そうなると消費が落ち込み、経済は停滞する。また、極端な格差の拡大は、人々の不満を生み社会を不安定化させる。

政府の課税能力は、これらの問題を解決する有力な手段である。

さらに、経済の実物資産や供給力がひっ迫しているために、政府の財政支出がインフレリスクを高めるようなときは、税金を引き上げて民間の支出を抑制することで、経済に財政支出の余地を作ることができるだろう。

次に国債についてだが、政府が赤字支出したとき、その赤字額とぴったり同額の「利付債券(国債)」が政府により発行され、政府赤字により増加した非政府部門の通貨と交換される。

そして償還時期がくれば、政府は国債保有者の銀行預金残高の数字を国債の額面額分増やし、国債を回収する。

なぜ政府赤字額とぴったり同額の国債が発行されているかと言えば、「そういうルールだから」としか言いようがない。

もちろん「財源」のために発行されているわけではないし、国債金利の支払いが政府の負担になることもない。通貨の発行者である政府の支出能力に限界はないからだ。

国債が発行される理由は、日銀が政策金利としている短期金利「無担保コールレート(翌日物)」の金利を目標金利に維持するためである。日銀は金融機関が保有する国債を売り買いし、金融機関の間で取引される資金(準備預金)の量を増減させることで、「無担保コールレート(翌日物)」の金利を目標金利に維持している。

しかし日銀は準備預金に金利を付ける(これを「付利」という)ことでも「無担保コールレート(翌日物)」の金利を調整することも可能である(現に2008年から日銀は付利を行っている)。

ゆえに政府が国債を必ず発行しなければならない理由は、実はないのである。

よって政府が「非政府部門が現在保有する全ての国債を通貨と交換し、以後、赤字支出をしても国債を発行しない」と決断すれば、「クニノシャッキンへの恐怖」という「虚像」は、この世から一瞬にして消滅する。

国債には「クニノシャッキンへの恐怖(という虚像)」の他にも悪い副作用がある。国債により、国債保有者には政府から金利という「給付金」が与えられる。これにより国債保有者の所得が増加し、それが消費に回ればインフレを亢進させる恐れがある。

さらに国債保有者はたいてい富裕層なので、国債金利は政府から富裕層への給付金になってしまい、格差を拡大させる。

これらの理由からも、国債は廃止することが望ましいのである。

質問3

日本銀行は2021年3月現在ETF(上場投資信託)を累計で36兆円(時価50兆円)購入し、直近でも10月1日に701億円購入しました。
この日銀によるETF購入の「財源」は何だと考えますか?

理想の回答「日銀のETF購入に財源は存在しない」

<解説>
日銀が金融機関からETFを購入する方法は、日銀職員がコンピュータのキーボードを叩き、買い入れ先の金融機関が日銀に開設している預金口座(日銀当座預金)の残高の数字を増やすことで実行される。

つまり政府による財政支出の方法と同じであり、日銀は事前にETFの購入資金を用意しておく必要はない。

2008年の金融危機の際、アメリカで「納税者のお金が銀行救済に使われている」という批判が起きたとき、連邦準備銀行(FRB)のベン・バーナンキ議長は「銀行の口座は連邦準備銀行にある。コンピュータを使ってその残高を増やしただけだ」と反論したが、それと同じことである。

しかし、政府の財政支出と日銀のETF購入には、その結果(効果)に大きな違いがある。

政府による適切な財政支出(及び増減税)は、困難な人々を助け、国のインフラを強靭にし、健全な経済を維持し、環境を整え、教育の機会を保証し、大都市への集中を是正し、地方の持続性を維持する。

しかし日銀のETF購入は、主に大企業と富裕層に利益を与え、大企業と中小零細企業、富裕層と貧困層の格差拡大を助長させるだけだ。

日本の経済学者は新型コロナウイルス対策として「日銀による100兆円規模の株式購入」を提言したが(https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3361)、これは現在の経済学の思想(あるいは「どちらを向いて仕事をしているか」)の好例として、後世まで記録しておくべき提言だろう。

高鳥修一候補の回答についてひろぽんによるコメント

質問1

「財政の黒字赤字は問題とすべき指標ではない」という高鳥候補の回答はまったく正しいです。ここまで言い切れる人は中々いないと思います。

しかしその後の「問題とすべきは国民経済がデフレであるかインフレであるかである」は、残念ながら正しくないでしょう。

まず問題とすべきは、国内の実物資源、特に労働力がフルに稼働しているか否かであり、それは「完全雇用であるか否か」が重要な指標となるでしょう。

実物資源(特に労働力)がフルに稼働していて、追加の財政支出がインフレを起こすことが想定されるとき、インフレが問題となります。

つまり、政府にとって最も重要な経済政策目標は「インフレなき完全雇用」であり、それを実現するには、財政制約がない政府が失業者を一定賃金で無制限に雇用する「雇用保証制度(Job Guarantee)」が最も効果的となるでしょう。

質問2

「財政支出に財源は存在しない」以上、税と同じく国債もまた財源ではありません。ゆえに「国債発行による財政出動」という表現は正しくありません。

「税は国民サイドから通貨を回収する手段」はその通りです。

質問3

高鳥候補の回答はおおむね正しいと思われます。

より細かく説明すると、日銀はETF購入のために「紙幣を刷る」ことはしておらず、ETF購入先の金融機関の日銀当座預金口座の残高をコンピューター操作により増やすことで決済しています。つまり、日銀は「デジタル通貨」とも言うべき準備預金を発行し、それをETF購入先の金融機関の日銀当座預金口座に振り込むことで決済しています。

おわりに

いかがだったでしょうか。
今回の公開質問の目的は各候補の経済的な考え方を知ることで投票行動の参考にすることでした。
しかし思いついたのが選挙期間に入ったあとだったこともあり、すべての候補から回答を得ることもできず、もっと早くやっていればという後悔はあります。

しかしお一人とはいえ回答をいただけたことはとても大事なことで、私はその回答を参考に明日投票日に投票所に赴きます。

今回の質問と解説は、投票先を支持政党で決めたり、選挙を人気投票に考えている人にとっては全く役に立たないものでしょう。しかし、この質問と回答をインターネットに記録できたことは、未来の日本、未来の新潟6区にとってとても意味があると私は考えています。

いつか日本が今以上の困難に向き合うことになったとき、「このような考え方をもっと早くしておけば」と思うときが必ず来ます。「選挙は政策で決める」と言う人は多いですが、実際の行動がそのとおりになることはおそらくほとんどありません。しかし私は、せめて自分自信はその少ない一人でありたいと思います。

最後に、私と同じく経営者として忙しい日々を送りながらも今回の質問と解説を執筆してくれた、盟友であり大事な後輩であるひろぽんに感謝を込めて、この解説ページの締めとさせていただきます。

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